心臓疾患
心臓は心筋という筋肉でできており、内腔が空洞で伸びたり縮んだりしながら全身に血液を送り出すポンプです。人間の心臓は4つの部屋に分かれています。中隔という真ん中の隔壁で左右に分かれ(右心、左心)、さらに上下の部屋に分かれ(心房・心室)、両側の心房➖心室間、心室から血管への出口にはそれぞれ弁がついています。また心臓自体は心膜という薄い膜で覆われており、中には心嚢液という少量の潤滑液が入っており 心臓がなめらかに動くようになっています。心臓が24時間動き続けるためには、絶え間なく冠動脈という血管から血液の供給を受けています。また心臓内部には電気信号を発する細胞が電線のように配置され、この電気信号が規則的に伝わることによって心臓は休みなく動くことができるのです。このように心臓はシンプルな機能でありながら24時間、人間が母体で誕生してから死の瞬間まで絶え間なく働き続ける健気な内蔵です。そして自律神経やホルモンなど様々な因子の影響を受けますので、全身の病気に影響を受けることが多いのです。また心臓に問題が起こると全身に様々な影響を及ぼし、時としてその変化は非常に短い時間で対応が間に合わないこともありますので、僅かな兆候を見逃さないこと、次に起こる変化を出来る限り予測して予防していくことが大切です。
心不全
心不全とは様々な心臓疾患の結果、起きるポンプ機能の低下のことを指し、あらゆる心臓病の最終形といえます。病名と言うよりは兆候、とでも言うべきでしょうか。
心不全の症状にはまず血液を送り出す能力の低下による症状があります。血液が十分に送り出せない「循環不全」の症状としては息切れや胸苦しさ、疲れやすい、だるい、動悸がする、などがあります。
もう一つは全身のむくみなど心臓に戻るべき血液の「うっ血」による症状であり、体の各部分に鬱血が生じるとむくみが出ます。肝臓などもむくんで肝機能が悪くなったり、胃腸もむくみで消化が悪くなったり食欲が落ちたりすることがあります。
症状は一晩で急になることもあれば、ゆっくり悪くなることもあります。まずは原因となる心臓病が何なのかを探ることが大切です。原因にたいする根本的治療を行わないと、心不全の増悪を繰り返すことにもなりかねません。
また、もともと心臓が悪い「慢性心不全」をお持ちの方は、原因とは別に「誘因=きっかけ」があると、安定していた状態を急に悪化させることがあります。気管支炎や肺炎などの呼吸器感染症や尿路感染症、塩分や水分の摂取過多、過労、狭心症、不整脈などが引き金となり、心不全が悪化することがあります。慢性心不全の方は、これらの誘因を避けるように注意する必要があります。
慢性心不全が急性増悪した場合、高い確率で入院を必要とすることが多く、絶対安静、酸素吸入を基本に点滴や内服薬で治療します。しかし、場合によっては一時的に大動脈バルーンパンピング(IABP)や経皮的人工心肺(PCPS)、人工心臓(VAD)や心臓移植など、高度医療を必要とするケースもあります
慢性心不全の場合は、基本的に生命予後(病気の経過において、生命が維持できるかどうかについての見通し)、生活の質(QOL)を改善させることが治療の目的になります。
慢性心不全の治療は日々進化しており、原疾患の治療に加え、有効とされる複数の薬剤を組み合わせることで症状を改善し、急性増悪による入院を繰り返すことを防ぎます。
狭心症・心筋梗塞
■狭心症
狭心症は、心臓の冠動脈(心臓の上に冠のようにのっており、心筋に酸素と栄養を供給している動脈)の血流が不足することによって、心筋が酸素不足に陥る疾患です。
主に動脈硬化のために冠動脈の血管が狭くなり、心臓への血液の流れが一時的に滞るために発症します。
狭心症を放置すると、やがて冠動脈が閉塞して心筋梗塞となり、命にもかかわる危険な状態になったりします。
そのため狭心症の段階で、しっかりと治療しておくことが肝心です。
狭心症の症状は、普通は「労作性狭心症」と言って労作時(体を動かした時)、つまり急ぎ足で歩いたり、階段や坂道を登ったりした時などに起こり、胸の中央部辺りが締めつけられる、あるいは何かを押しつけられているような圧迫感を覚えます。しかし、少し休むと治まってしまうのが特徴です。
痛みはしばしば左肩・腕や顎まで広がり、みぞおちに胃の痛みのようなものが感じられたり、息切れとして自覚されたりすることもあります。
症状の持続時間は、数秒から数分程度です。
一方、「安静時狭心症(異形狭心症)」と言って、同じような症状が労作と関係無く出ることがあります。これは「冠攣縮(かんれんしゅく)」、つまり冠動脈が痙攣したように収縮してしまい、動脈硬化で細くなった時と同様の狭窄が一時的につくり出されて起きる現象です。必ずしも動脈硬化と関連がない場合もあり、比較的日本人に多く、若い女性もなることがあります。じっとしているときや寝ているときにおこることが多く、ニトログリセリンなどの冠動脈を広げる薬がよく効く病気ですが、悪化すると心筋梗塞に至ることもあるので放っておいてはいけない病気です。逆流性食道炎,肋間神経痛など、ほかの胸部の病気と鑑別する必要があります。
■狭心症の検査
狭心症の主な検査には、心電図、運動負荷試験(トレッドミル・エルゴメータなど)、RI(ラジオアイソトープ、核医学)検査、冠動脈CT、ホルター心電図、冠動脈造影などといった方法があります。
■狭心症の治療
狭心症の元々の原因は多くの場合、動脈硬化です。
いったん起こった動脈硬化を元通りにすることは、現時点では不可能です。
したがって動脈硬化がそれ以上進まないように努力する、ということが治療の大前提になります。
そのためにはリスク因子と言われる高血圧・脂質異常症・糖尿病などを治療し、禁煙、適正体重の維持、適度な運動などを心がけることによって、危険因子を可能な限り減らし今以上に動脈硬化を進行させないことが重要です。
それらを踏まえた上で、薬物療法をはじめカテーテル治療やバイパス手術などの治療が行われます。
心筋梗塞
冠動脈が詰まって血流が途絶えると、心臓の筋肉に酸素と栄養が供給されなくなり、やがてその領域の筋肉が死んでしまい(壊死)、心筋梗塞が発症します。
心筋梗塞になると、激しい胸の痛み、重い感じ、呼吸困難、冷汗、嘔吐などの症状が現れます。ただし、高齢者や糖尿病患者ではリスクが高い割に感覚が鈍って胸痛を自覚しないこともあり、見落とされるケースも少なくないので要注意です。
■心筋梗塞の検査
心筋梗塞の診断は発症時の症状(持続する胸痛など)、心電図検査、血液検査などで診断されます。心臓超音波検査(エコー)も心臓の運動障害が観察できるため、診断の補助になります。さらに心臓カテーテルを行うと、閉塞または狭窄した冠動脈が観察でき、確定診断がつきます。
■心筋梗塞の治療
心筋梗塞では、閉塞した冠動脈の血流を早く再開通させることが最も重要です。その方法としては、閉塞した冠動脈の血栓を溶かしたり(血栓溶解療法)、詰まった血管を風船で拡張したり(冠動脈形成術)、ステントを移植したり、血栓(血のかたまり)を吸引したりする方法などがあります。
いずれにしても、いかに早く血流を再開通させ壊死心筋の範囲を最小限に抑えるかがその後の経過を左右します。そして2度と心筋壊死を繰り返さないために、しっかりとリスク因子を管理すること、もし心筋梗塞で心臓の機能が低下してしまった場合、心不全とも上手に付き合っていく必要があります。最初のダメージの範囲にもよりますが、医師と相談しながら薬物管理などをしっかりすればマラソンができるくらいまで回復する方もおられます。
■心筋梗塞の予防
心筋梗塞を予防するためには、動脈硬化の進行を防ぐことが大切です。それには、危険因子の除去に努めることが重要になってきます。
以下のような心がけが、心筋梗塞から身を守ります。
- 禁煙する
- 塩分、糖分、脂肪分を摂り過ぎない
- バランスの良い食事を心がける
- 適度な運動をする
- ストレスにうまく対処する
- 規則正しい生活をおくる
- 高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)を治療する
- 強い胸痛を感じたら、とにかく医療機関に急ぐ
不整脈
心臓は独自の電気信号に従って動いていますが、不整脈とはこの電気信号の乱れにより起こる現象を指します。心臓は1日に約10万回も拍動しており、時には規則正しくない電気信号により不規則な動きをしてしまう場合があります。不整脈には放っておいてよいタイプ、すぐに治療が必要なタイプ、将来的に起こる問題に対し予防が必要なタイプなどいろいろあり、循環器の中でも特に専門性の高い領域です。必ずしも自覚症状があるわけではなく、本人が気づかないで健診などでたまたま見つかるケースもあります。危険なタイプの不整脈はおおまかに言うと脳への血流が途絶えてしまうようなタイプのものです。脈が早すぎても遅すぎても十分な循環状態が得られません。不整脈がうたがわれたらますが心臓超音波検査で基礎的な心疾患がないかを確認しホルター心電図で24時間心電図を長時間記録し診断精度を高めます。発作は一瞬で収まってしまうことも多いのですが、よくお話を伺うとどんな不整脈が起きているか予測することができるケースもあります。病的な不整脈が発生する主な原因は、冠動脈疾患、心臓弁障害、心不全、先天性心疾患などがありますが、他にも甲状腺異常などの全身の疾患に伴うこともあります。また、心臓病等に関係無く、加齢や体質的なもの、ストレスや睡眠不足、疲労などによっても不整脈は起こりやすくなります。
一般に不整脈には 速い脈、遅い脈、乱れた脈などで分類されます。
■早い脈(頻脈)上室性頻拍発作、心室頻拍、心房細動など
頻脈になると、ドキドキとする動悸が感じられるようになります。
さらに脈が速くなると心臓が十分に収縮と拡張を繰り返すことができなくなり全身に血液を送り出せない状態となってしまい、吐き気や冷や汗、意識消失等の症状が出てきます。一般的に安静時に100回/分以上の脈を頻脈と呼びますが、長く続くと心不全を起こすこともあります。
■遅い脈(徐脈) 洞不全症候群、房室ブロックなど
1日に脈が8万回以下というような徐脈状態が続くと循環血液量が慢性的に少なくなり、動作時に息切れをするようになります。洞不全症候群などが該当します。 また脳は短い時間でも酸素不足に弱いので、1日の心拍数は足りていてもブロックといわれる状態で3秒以上心臓が止まると、脳血流が途絶えフラッとしたり、めまいがしたり、意識が無くなって卒倒したりします。ホルター心電図で事前に予測できることもありますが、ある日突然起こって交通事故などの原因になる可能性もあります。危険性があるものに関してはペーメーカーという補助の機械を皮膚の下に植え込み、心臓に補助の脈を与えられるようリードを心臓内に留置します。頻脈と違い、薬の治療よりもペースメーカーを入れるひつようがある状態かどうかという判断が大事になってきます。
■脈が飛ぶ/抜ける 期外収縮など
期外収縮になっても自覚症状を感じないことが多いのですが、脈が飛ぶ、ドッキンとする、喉がうっと詰まる感じ、とおっしゃる方が多いようです。期外収縮と言われる比較的害の少ない不整脈がほとんどですが、連発すると突然血圧が下がるなど危険な症状を引き起こす場合があり、ホルター心電図や問診から危険なタイプでないかどうか調べていきます。また心臓にもともと異常があると、心臓の状態が悪くなっているサインであることもあるので、頻発する場合も根本的な心臓の精査をされたほうが良いでしょう。
■脈がバラバラ 心房細動など
必ずしも自覚する症状があるわけではなく、検診で偶然発見されるケースも多くあります。また、血圧を測定しているときに 不整脈のマークが出たり、拍動が不整であることで気づくこともあります。放置すると脳梗塞や心不全の原因となる場合があり治療が必要ですので、早期の受診をお勧めします。
弁膜症
心臓を仕切る4つの弁がうまく閉まらない閉鎖不全症と、うまく開かない狭窄症があります。両方が合併することもあります。放置して悪化すると心臓のポンプ機能異常である心不全を起こす恐れがあります。原因、年齢は様々でどの弁に異常が起こるかも様々ですが、診断はまずは心臓エコーで弁の開閉の状態を把握します。どの程度の弁膜症なのか、心臓全体への影響はどのくらいか、推測される原因はなにかなどを評価します。軽傷のうちは内服薬で良い状態を維持できますが、重度になると内科での治療の限界ですので時期を見て心臓外科にご紹介し手術することをおすすめします。方法としては、弁を取り替えたり(置換術)、縫い縮めたりして作り変えたり(形成術)する手術のほか、最先端の治療では血管から新しい弁を挿入し古い弁の代わりに留置する(大動脈弁経皮的弁置換術)など、胸を開くことなくできる治療も開発されています。
また弁膜症をもつと、感染性心内膜炎といって、血液中に最近が混入する可能性のある歯科治療や手術の際、弁に菌が付着し疣贅という菌の塊ができることもあり、事前に抗生剤投与が必要になることもあるので治療の前にはご相談することをおすすめします。
心筋症
拡張型心筋症や肥大型心筋症などがあり、特発性とは心臓の筋肉そのものの変性によっておこるちょっと特殊な病気です。
心筋梗塞や弁膜症などほかの心臓病に引き続いて起こることもありますし、特殊な物質の沈着など稀な疾患もあります。一部は進行性で心臓移植が必要になったりする重症タイプもありますが、薬のコントロールによって生活の質を落とさず、上手に付き合っていくことができる方も沢山おられます。一般的には難病指定ですので公的補助を受けられることがありますが、専門指定医でなければ書類作成できませんのでご注意ください。